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特許権者による外国特許権の行使も我が国の公正取引法に拘束されるのか

特許権者による外国特許権の行使も我が国の公正取引法に拘束されるのか

編集部

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一、    前言
台湾公正取引法第25条には、「本法に別段の規定がある場合を除き、事業者はその他取引秩序に影響するに足りる欺瞞又は著しく公正さを欠く行為を行なってはならない」と明記されており、また、公正取引委員会は、事業者による知的財産権の適正な行使を規制するため、「事業者が著作権、商標権または専利権の侵害に対し警告書を送付する案件の、公正取引委員会の処理原則」を公布しました。しかし、近年、公正取引委員会または知的財産及び商事裁判所(以下、知商裁判所という)が、特許権者による外国特許権の不当な行使に対して、それぞれ処罰および判決を下しました。特許権者による外国特許権の行使も台湾公正取引法の規制の対象となる可能性があることを明らかにしただけでなく、他者に損害を与えた場合にも損害賠償責任を負うものとします。以下は、公正取引委員会により発行された処分書と知商裁判所の判決についての説明です。
 
(一)    公正取引委員会の公処字第113017号処分書
該案件における被処分者はチップメーカーで、2022年5月には告発者(つまり競合相手)及び下流の取引先に対し、「告発者が我が社の米国特許権を侵害している」との警告書を送り、差し止めを請求しましたが、該米国特許権は、特許維持年金の未納のため失効しており、その後、被処分者が権利回復を申請したものの、特許失効期間中は特許権が法的に存在しないため、被処分者が十分な調査義務を果たさず、軽率に警告書を発出することから、被処分者の行為が市場取引の秩序に不当な干渉と損害を与えたと認められましたので、被処分者に対して処罰を科しました。

(二)    知商裁判所の2023年の民公訴字第1号民事判決
この判決の被告は、公正取引委員会の前記処分書に記載された被処分者です。原告は、被告の「十分な調査義務を果たさずに軽率に警告書を発出した」との行為によって自らの「のれん」が損なわれたとして、損害賠償訴訟を提起しました。これに対して被告は、「両社が相互に競争する市場は米国市場であると共に、警告書で主張した特許権は米国の特許権であることから、複数回にわたり台湾に所在する企業に警告書を送付した事実があったとしても、これによって取引市場が変更されるわけではなく、かつ、製品の加工や組み立ての多くは海外の中国で行われているため、台湾は警告書における対象となる取引市場ではないため、台湾の公正取引法に適用されない」と主張しました。両者の主張について、裁判所は次のように認定しました。
 
1.     公正取引法の第5条における、「本法において『関連市場』とは、事業者が一定の商品またはサービスについて、競争に従事する地域または範囲をいう」との規定によれば、関連市場とは、経済学における競争圏を指し、商品の代替性の広さと商品の販売地域の違いによりその地域または範囲が解釈されます。関連市場を特定するには、製品市場と地理的市場を総合的に判断する必要があります。製品市場とは、機能、特性、用途または価格条件において需要または供給の代替性が高い商品またはサービスによって構成される範囲を指し、地理的市場とは、事業者が提供する特定の商品またはサービスについて、取引相手が容易に他の取引先を選択または切り替えられる地域範囲を指します。製品市場と地理的市場を考慮する以外に、具体的な事例に応じて、特定の市場範囲に対する時間的要因の影響も考慮することができます。この訴訟の原告と被告はいずれも、台湾のチップメーカーであり、原告はチップを製造した後、組立工場に販売し、さらに組立工場を通じて台湾のブランドメーカーに販売しています。製品は最終的に米国に販売されるものの、台湾ブランドメーカーの海外子会社は台湾の親会社を通じて製品を入手しているため、取引の障壁は非常に低く、米国市場と台湾市場は一体として単一市場と見なすことができます。さらに、両者の2022年の年報によると、パワー半導体デバイス(パワーMOSFET)との製品は、原告と被告の事業の売上比率のそれぞれ80%と90%を占め、両者の製品は高度に競合しており、両当事者はチップメーカーの競合関係にあるため、被告の警告書送付の行為は供給の代替を発生させる可能性があります。また、台湾は国際的な半導体産業において重要な地位を占めており、台湾と米国におけるチップの製造と販売において両国は当然のことながら相互に影響を及ぼしているため、本件における公正取引法で規制される関連市場には台湾が含まれ、台湾の公正取引法の適用があると言えます。

2.     被告は3回にわたり警告書を送付し、最初の警告書送付後、さらに別の米国特許に関して2回の警告書を送付しました。これに対し、原告は、自社製品は被告の特許権を侵害しておらず、被告の侵害分析には欠陥があると主張しました。しかし、裁判所は、「審理すべきものが、被告による警告書送付行為が公正取引法第25条の規定に違反するかどうかであり、被告の警告書に添付された鑑定評価書が侵害の成立を証明できるかどうかではない」と考えました。被告は最初の警告書を送付したとき、特許権の有効性の確認を怠ったことは、「取引秩序に影響を及ぼし、明らかに公正さを失する行為」に該当し、公正取引法第25条の規定に違反すると言えます。

3.     のれん(社会的信用力)は、企業経営者の信用を表彰するものであり、人格権との非財産的な性質を有することに加えて、商業活動において一定の経済的利益を生み出す、財産権としての性質も有することから、保護されるべきものです。被告が下流の台湾ブランドメーカーに最初の警告書を送付した行為は、前述の公正取引法の規定に違反しており、当該メーカーは原告の係争チップが特許権侵害品であるかどうかについて疑念を抱く結果を招き、ひいては原告が売買契約締結の機会を失い、または原告の競争力が低減してしまう可能性があることから、原告ののれんに損害を与えたことは明らかであり、その損害は被告の行為と因果関係を有しますので、被告は侵害行為に基づく損害賠償責任を負うべきです。

二、    結論
公正取引委員会は、公正取引法第5条の「関連市場」に関して、「公正取引委員会からの関連市場の特定に関する処理原則」を定めており、その処理原則第3条において「需要の代替性は、関連市場を特定する際に公正取引委員会が検討する主な事項である」と規定されています。これにより、公正取引法によって特定される関連市場は純粋に地理的に区別されるものではないことが分かります。また、最高行政裁判所の2006年の判字第1072号の判決では、「事業の行為が『取引秩序に影響を及ぼす』ことに該当するかどうかを判断する際、行為者の行為には故意または過失があり、かつその行為が実施後に取引秩序に影響を及ばす可能性があり、抽象的な危険性のレベルに達するものであれば、十分である」と示されています。これによれば、公正取引委員会が事業の行為が公正取引法第25条の違反に該当するかどうかを判断する際、実害が発生しているか否かを判断要件として考慮していないことから、特許権者の特許権の行使については、専利法に実用新案に関する特別な規定がある場合を除き、特許権者が権利濫用、信義則に反する行為がない限り、公正取引委員会は特許権の合法的な行使と認定し、寛大に認定する傾向にあります。しかし、これは特許権者が調査義務を果たさなくてもよい、または公正取引法が台湾の特許権の行使行為にのみ適用され、外国の特許権の行使行為を含まないと一方的に解釈してもよいという意味ではありません。公正取引委員会から処罰を科せられたり、他者からの補償を要求されたりすることを避けるために、この点を十分に留意する必要があると考えます。

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