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台湾における数値限定発明の注意事項

台湾における数値限定発明の注意事項

数値限定発明とは、請求項に数字(範囲)により限定された技術特徴を有するものであり、化学又は材料の技術分野の出願でよく見られ、そのような技術特徴が物の発明においては、一般的にその物の物性・化性の数値などであり、方法の発明においては、使用量、温度、圧力、時間などの様々なパラメータ条件が一般的である。

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1.はじめに

数値限定発明とは、請求項に数字(範囲)により限定された技術特徴を有するものであり、化学又は材料の技術分野の出願でよく見られ、そのような技術特徴が物の発明においては、一般的にその物の物性・化性の数値などであり、方法の発明においては、使用量、温度、圧力、時間などの様々なパラメータ条件が一般的である。本文では、数値限定発明の、台湾知的財産局(以下、知財局と略称する)での審査段階における関連規定、及び台湾知的財産裁判所(2021年7月1日に知的財産及び商業裁判所に改称され、以下、知財裁判所と略称する)での侵害訴訟段階における関連実務の見解について、明細書の作成及び侵害訴訟の提起前の参考として一連の紹介及び説明を行う。

2.数値限定発明の定義

請求項に数値又は数値範囲により限定された技術特徴を有するものは、数値限定発明と呼ばれる。

例1:粘性鉱物を基質として0.001~2wt%の乳酸を添加したレゾルシノール混合剤を含む、安定化されたレゾルシノール混合剤。

例2:水を含むタバコ物質を連続的に圧縮及び減圧する方法で処理し、…タバコ製造方法であって、前記圧縮作用は55℃より高い温度で行うことを特徴とするタバコ製造方法。

3.数値限定の記載方式の法的根拠

知財局により公布された2021年版専利審査基準(以下、審査基準と略称する)の第2篇第1章における「2.4.1.6 物又は方法がパラメータにより限定されたことによる不明確」との節においては、「請求項中のいくつかの技術特徴が、構造又は工程により明確に限定できない場合にのみ、例えば、融点、分子量、pH値などのパラメータ、又は複数のパラメータを変数として構成された数学関係式により限定することができ、また、化学物質については、化学名称又は分子式、構造式などの構造的特徴により請求項を限定できない場合、物理的又は化学的パラメータにより限定することができる」ことが規定されている。

前記規定に基づけば、「当該技術特徴を構造若しくは工程により明確に限定できない場合、又は当該化学物質を化学名称、分子式若しくは構造式などの構造的特徴により限定できない場合に限り、初めてパラメータにより限定することができる(即ち、数値限定である)」ことが分かる。

4.数値限定発明の新規性の判断

審査基準第2篇第3章の「2.5.4.2 サブレンジの選択」における「選択発明が、先行技術に開示された比較的大きな数値範囲から比較的小さい範囲を選択したものであれば、先行技術に例示された数値が当該サブレンジに含まれている場合を除き、原則として新規性を有する」との規定によると、数値限定発明である特許を受けようとする発明に限定された数値範囲が先行技術に開示された範囲に含まれていても、当該特許を受けようとする発明は新規性を有するが、先行技術に開示されたある数値が当該特許を受けようとする発明に限定された数値範囲に含まれている場合、それは新規性を有しないことになる。

簡単に言うと、広い範囲のものは、狭い範囲のものの新規性に影響を与えないが、狭い範囲のものは、広い範囲のものの新規性を影響する。下図により具体的に説明を行うことができる。図1に示されるように、数値限定発明である特許を受けようとする発明の数値範囲(図中の赤枠)が、先行技術に開示された比較的大きな数値範囲(図中の青枠)に含まれている場合、当該先行技術はその新規性に影響を与えないが、図2に示されるように、先行技術に示されたある数値(図中の青い丸)が特許を受けようとする発明の数値範囲(図中の赤枠)に含まれている場合、当該特許請求の発明は新規性を有しないことになる。




 

5.数値限定発明の進歩性の判断

審査基準第2篇第3章の「3.5 発明選択の進歩性の判断」においては、「同章の『3.4 進歩性の判断手順』に基づくべきのほか、更に注意しなければならないのは、選択された部分が関連する先行技術と比較して予測できない効果を有するものである場合は、『その発明は、容易に完成できないものであり、進歩性を有する』と認定すべきであり、例えば、関連する先行技術には既に、『温度が50~130℃の範囲である場合、化合物Cの生産量は温度の上昇に伴って増加する』ことが開示されているが、当該化合物Cの生産量が数値限定発明で設定された63~65℃の温度範囲内で顕著に増加する場合、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって、当該効果が出願時に予測できないものであれば、当該数値限定発明は、予測できない効果を有することになるので、『それは、容易に完成できるものではなく、進歩性を有する』と認定すべきである」ことが規定されている。

また、知財裁判所2011年民専訴字第64号民事判決を例にとり、係争案が、第I313310号の発明専利であり、そのうちの数値限定発明である請求項11の内容は、以下の通りである。

「その結び目が高度な規則性を備え、スルーラインのヤーンプロセスチャネル及びブローイングエアサプライチャネルを有し、前記ブローイングエアサプライチャネルが前記ヤーンプロセスチャネルの縦中心軸に向いている、マルチノットヤーンを製造するためのエンタングルメントノズルであって、

ブローイングエアサプライチャネルの開口領域に、前記ヤーンプロセスチャネルでブローイングエアチャネル拡幅部が形成されることにより、2つのストランドの逆方向の位置が固定された加撚のための空気加撚室が形成され、前記ブローイングエアチャネル拡幅部の両側の突起長さは、ヤーンチャネルの幅の5%超22%未満であり、又はヤーンチャネルの幅が3mmである場合、両側がヤーンチャネルからはみ出す突起量は、多くとも0.5mmであることを特徴とするマルチノットヤーンを製造するためのエンタングルメントノズル」

ここでは、前記請求項における「ブローイングエアチャネル拡幅部の両側の突起長さ」との技術特徴を注意すればよく、その「ブローイングエアチャネル拡幅部の両側の突起長さ」は、下図において「L」と示されるものである。




 

知財裁判所は、前記係争案の請求項11の進歩性の有無について、次のような見解を示している(1→2→3→4)。

(1) 周知技術と比較すると、その相違点は単に、「ブローイングエアチャネル拡幅部の両側の突起長さに対する制限(即ち、5%~22%)」である。

(2) 数値が限定された選択発明においては、当該数値の限定が先行技術よりも顕著な同一性質の効果を生じるか否かを、進歩性有無の判断基準とすべきである。

(3) その明細書の実験結果によると、「当該突起長さは、ヤーンチャネルの幅の18.75%であることが最適である」ことが示されているが、この18.75%は、22%と差があり、22%による顕著な効果は、その実験結果から証明できない。

また、その明細書には、「空気加撚室の突起量には、臨界値があり、当該臨界値は約0.5mmであり、また、横方向の突起量が0.5mmより多い加撚室の設計においては全て、明らかな品質低下が発生した」ことが記載されているが、ヤーンチャネルの幅が2.2727mm~3mmである場合に、ブローイングエアチャネル拡幅部の両側の突起長さは、ヤーンチャネルの幅の22%であると、0.5mmを超えるので(例えば、2.8×0.22=0.616mm)、係争専利第I313310号の効果は、周知技術よりも低下する。

(4) 故に、係争専利の請求項11の発明が進歩性を有することは、認められない。

知財裁判所の前記(2)に示される判断から分かるように、その数値限定発明に対する進歩性の判断も、前記審査基準の規定と同様であり、当該数値限定が先行技術よりも顕著な同一性質の効果を生じるか否かを判断基準としている。

また、前記(3)に示される判断から分かるように、数値限定発明に係る明細書を作成する場合は、その実施例の実験値が請求項に限定された数値範囲に十分対応しているかに留意しなければならず、前記係争案を例にすると、その実施例の実験値には、請求項11に限定された上限値22%が含まれていないことから、「22%の場合に顕著な効果を有する」ことが証明できないと判断されているので、明細書を作成する際に、実施例の実験値をそれぞれ、請求項に限定された数値範囲における上下限値及びその中間値に設定した方がよいと考え、また、当該数値範囲が広い場合には、特許請求の範囲が十分にサポートされるように、更に当該下限値と中間値との間、及び当該上限値と中間値との間にそれぞれ、1つの実験値を設定したほうがよく、更に、明細書の作成時には、「その内容が請求項に限定された数値範囲に抵触するか否か」についても注意しなければならず、例えば、前記係争案の明細書における、「『当該空気加撚室の突起量には、臨界値があり、…、明らかな品質低下が発生した』との記載が、請求項11に限定された数値範囲に抵触している」ことに気づいていないので、裁判所により「その効果は、周知技術よりも低下する」と判断され、当該請求項11の進歩性が否定されている。

6.数値限定発明の補正

(1) 審査基準第2篇第6章の「4.2.3 認められる変更」における「(2)請求項の数値限定の変更」との規定により、数値限定発明の範囲に対し補正を行う際には、以下の注意事項がある。

①元請求項に限定された数値範囲を補正しようとする場合は、明細書に明記されている範囲に補正することのみが認められる。

②元請求項の数値範囲の上下限値を補正しようとする場合、2021年7月14日に知財局により公布され、同日に発効した改正審査基準においては、次の二つの条件(i)、(ii)を同時に満たさなければ、その補正が認められない規定が追加されている。

(i) 変更された数値範囲の端点値が、出願時の明細書、特許請求の範囲、又は図面に開示されていること。

(ii) 変更後の数値範囲が、出願時の明細書、特許請求の範囲、又は図面に開示された数値範囲内に含まれていること。

③具体的な数値を否定的に表現する方式で補正を行うことができ、例えば、元請求項にある数値X1=600~10000が記載されているが、先行技術の範囲X2が240~1500である場合は、重複部分を排除する記載方式で、当該請求項に記載された数値範囲を「X1>1500~10000」又は「X1=600~10000。但し、600~1500を除く」に補正することを例外的に許可する。

(2) また、2021年7月14日に公布され、同日に発効した審査基準第2篇第6章の「7.事例の説明」においては、下記の2つの補正事例が追加されているので、その規定についても留意しなければならない。

①個々の数値から1つの範囲にするような補正は、認められない。

[明細書]

…実施例1に記載された感圧性粘着剤組成物aの室温で測定された粘度は、3,500cPであり、実施例2に記載された感圧性粘着剤組成物bの室温で測定された粘度は、10,000cPである。

[補正後の特許請求の範囲]

架橋可能なアクリル系ポリマー、多官能性架橋剤、及び多官能性アクリレートを含み、室温での粘度が3,500cP~10,000cPである、感圧性粘着剤組成物。

[理由]

当該数値範囲は、補正前の明細書、特許請求の範囲、又は図面の開示内容から直接的且つ一義的に導き出せるものではない。

②元の範囲に含まれていない数値により元の範囲をより広いものに拡大する補正は、認められない。

[明細書]

…「感圧性粘着剤組成物の室温で測定された粘度範囲は、3,500cP~10,000cP」ことが記載されている一方で、実施例には、「感圧性粘着剤組成物の室温で測定された粘度は、12,000cPである」ことが記載されている。

[元特許請求の範囲]

架橋可能なアクリル系ポリマー、多官能性架橋剤、及び多官能性アクリレートを含み、室温での粘度が3,500cP~10,000cPである、感圧性粘着剤組成物。

[補正後の特許請求の範囲]

架橋可能なアクリル系ポリマー、多官能性架橋剤、及び多官能性アクリレートを含み、室温での粘度が3,500cP~12,000cPである、感圧性粘着剤組成物。

[理由]

当該数値範囲は、補正前の明細書、特許請求の範囲、又は図面の開示内容から直接的且つ一義的に導き出せるものではない。

7.パラメータ測定方法の記載及びその例外

審査基準第2篇第1章の「2.4.1.6 物又は方法がパラメータにより限定されたことによる不明確」においては、「請求項においてパラメータにより技術特徴が限定される場合に、原則として請求項に当該パラメータの測定方法を記載しなければならないが、次のいずれかに該当する場合には、記載する必要がない。

(1) 測定方法が唯一の方法又は一般的に使用される方法で、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が既に知っているもの。

(2) すべての既知の測定方法によっては、同一の結果が得られるもの。

(3) 測定方法の記載が冗長な原因で、簡潔でない又は理解しにくいため、請求項が不明確になる可能性がある場合、請求項の記載については、明細書に記載された測定方法を参照すればよいもの。

8.数値限定発明専利が均等侵害を受けるか否かの判断

知財裁判所の2014年民専上字第6号民事判決において、係争案が公告第397723号発明専利で、その請求項1の内容は次の通りである。

「スタンピングダイにより、円形パイプを直接に両側に円形開口を有するボールハウジングに打ち抜き(構成要素B)、更にボールハウジングの周面にバルブ棒の係止に用いられる係止溝を打ち抜き(構成要素C)、次に、外径が開口口径と等しいと共に、長さがボールプラグの流路長さと等しい円形中管を、溶接によりボールハウジングの両側の円形開口の間に固定し(構成要素D)、更に真円度の矯正及び表面の仕上げ処理を経て、内部中空のボールプラグの構造を製造した(構成要素E)方法であって、当該パイプの口径がボールプラグの外径と等しく、且つその長さがボールプラグの流路長さの1.1倍である(構成要素F)ことを特徴とするボールバルブ用ボールプラグの製造方法(構成要素A)」

この判決が2014年に作成されたものであるので、知財裁判所は、専利侵害鑑定要点の規定に基づいて侵害判断を行い、その判断の流れは、以下の通りで(1→2→3→4→5)、前記請求項1に注記された構成要素A~Fは、裁判所が当該請求項を分解して得られたものであり、そのうちの数値限定発明に属する構成要素Fは、以下の議論の重点である。

(1) 係争方法は、係争専利の請求項1における構成要素D、Fの技術特徴の文義範囲に該当していないことから、当該係争方法は文言侵害に該当するものではないので、均等論の検討を行う。

(2) 係争方法の構成要素Dの技術内容と、係争専利の請求項1の構成要素Dの技術特徴とは実質的に同一でなく、均等ではないので、均等論は適用されない。

(3) 係争専利の請求項1における「円形パイプをボールハウジングに打ち抜き、パイプの長さがボールプラグの流路長さの1.1倍である」構成要素Fと、係争方法における「円形パイプをボールハウジングに打ち抜き、パイプの長さがボールプラグの流路長さの1.25倍である」構成要素Fとを比較すると、数値上の相違があるものの、係争専利の明細書における「その口径及び長さは、材質及び厚さに応じて若干調整することができるものであり、パイプを両側に円形開口を有するボールハウジングに打ち抜くことができればよい」との記載から分かるように、

①当該「パイプの長さがボールプラグの流路長さの1.1倍である」との技術特徴は、その課題(製造が簡単・迅速で、加工品質が優れている)を解決するために用いられる技術手段に関係なく、一般的な数値限定にすぎず、且つ

②パイプを両側に円形開口を有するボールハウジングに打ち抜くことができればよい場合には、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、材質及び厚さに応じてパイプの口径と長さを若干調整することにより、「パイプの長さがボールプラグの流路長さの1.1倍である」との技術特徴を完成することができる。

故に、係争方法の構成要素Fとの相違点は、係争専利が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に完成できるものであるので、両者の技術手段は実質的に同一であると見なすべきである。

(4) 係争方法と係争専利の機能はいずれも、「円形パイプをボールハウジングに打ち抜く」ことであり、且ついずれも「製造が簡単・迅速で、加工品質が優れている」との結果を生じる。

(5) 従って、係争方法は係争専利の請求項1における構成要素Fの技術手段、機能、及び結果と実質的に同一であり、均等論が適用される。

前記(3)、(4)から分かるように、裁判所においては、数値限定発明専利が均等侵害を受けるか否かを判断する際にも、「実質的に同一の技術手段(way)により、実質的に同一の機能(function)を達成し、実質的に同一の結果(result)を生じるか否か」との三要素テスト法を利用しており、特に、明細書の記載に基づく「実質的同一」の該判断方法は、今後権利侵害の判断を行う際の参考とすることができる。

一方、2016年2月に智慧局により公布された専利侵害判断要点に基づけば、係争専利の請求項1と係争方法とはいずれも、パイプの口径と長さを調整する手段を採用することにより、パイプをボールハウジングに打ち抜くものであることから、両者の三要素テストにおける「方法(way)」が同一であると考えられ、且つ両者の機能はいずれも、「円形パイプをボールハウジングに打ち抜く」ことであり、更にいずれにおいても、「製造が簡単・迅速で、加工品質が優れている」との結果を生じるため、たとえ専利侵害判断要点の三要素テストによっても、係争方法の構成要素Fは、係争専利の請求項1の均等範囲に含まれると考える。

9.おわりに

以上、数値限定発明について、知財局での実体審査段階における関連規定、及び知財裁判所での侵害訴訟段階における関連実務の見解をまとめたが、読者の皆様に、数値限定発明に対して全般的に理解して頂き、数値限定発明に係る出願及び侵害訴訟に役立つことができればありがたい。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。 


 

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