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台湾における新規性又は進歩性喪失の例外に係る規定の紹介、及び日本・中国の関連規定との比較

台湾における新規性又は進歩性喪失の例外に係る規定の紹介、及び日本・中国の関連規定との比較

出願前に公開された内容は、出願に係る発明の新規性・進歩性を否定し得る先行技術になるが、特許制度に詳しくない発明者は、特許出願前にうっかり発明を公開してしまった場合、その発明は新規性あるいは進歩性がないとされ

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出願前に公開された内容は、出願に係る発明の新規性・進歩性を否定し得る先行技術になるが、特許制度に詳しくない発明者は、特許出願前にうっかり発明を公開してしまった場合、その発明は新規性あるいは進歩性がないとされ、特許を受けられなくなるので、発明者にとっては酷である。また、学術論文の発表など、研究成果をいち早く公開するニーズもあると考えられることから、特許法では、特定の条件の下で発明が公開された後に、その発明の特許を受ける権利を有する者が特許出願した場合に、その公開によってその発明の新規性・進歩性が喪失しないものとされる規定が設けられている。

一、台湾の規定について

1、定義

新規性又は進歩性喪失の例外の猶予とは、特許出願前の特定期間内において、出願人が特定の事情により公開された事実がある場合、当該公開の事実は特許出願に係る発明の新規性又は進歩性の喪失により特許を取得できないことには至らないことを指す。

2、専利法の規定(第22条第4項)

出願人の本意により、又は本意に反して公開に至った事実があり、そして、当該公開の事実が発生してから12ヶ月以内に出願する場合、当該発明には新規性又は進歩性喪失の例外の猶予が適用されるものとなり、当該公開の事実に関する技術内容は、特許出願に係る発明が新規性又は進歩性を有するか否かを判断する先行技術にはならない。

3、新規性又は進歩性喪失の例外の猶予の適用を受けるための審査要件

上記のように、この規定を適用するために、

(1)出願人が公開の事実の発生から12ヶ月以内に特許出願すること、
(2)その公開は、出願人の本意又は不本意によるものであること、

との2つの要件を満たす必要がある。

また、出願人はこの規定を適用しようとする場合、公開の事実、事実発生日を明記し、並びに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。

 

4、留意事項

なお、上記審査要件について、以下のように幾つかの留意事項がある。

(1)公開の事実の行為の主体としては、出願人自身以外、第三者も含む。第三者とは、例えば、出願人がその公開を委任、同意、指示した者、或いは、秘密保持義務に違反し、又は不正な手段である脅迫、詐欺で発明を窃盗した者などを指す。
(2)出願人が完成した発明の技術内容について台湾又は外国で特許出願したことにより、公開(又は公告)公報にてなされた公開については、原則的に本規定が適用されない。
(3)公開の事実については、出願人の本意又は不本意によるものであればよく、特定の公開態様に限定されていない。例えば、刊行物、試験の実施、論文雑誌、展示会などによる公開態様が考えられる。
(4)新規性又は進歩性喪失の例外については、出願時の主張を時期的要件としないので、査定前に自発的に上記証明書類を提出することができる他、審査過程でその公開の事実を引用文献として新規性・進歩性欠如などの拒絶理由を受けたとき(下記【例1】)、或いは、他人よりその公開の事実を証拠として新規性・進歩性欠如を理由とする無効審判を提起されたとき、上記証明書類を提出することにより対応することができる。

 

【例1】



 

説明:

【例1】は、上記に説明した、(1)出願人が公開の事実の発生から12ヶ月以内に特許出願すること、(2)その公開は、出願人の本意又は不本意によるものであること、との二つの要件を満たしているので、証明資料の提出により拒絶理由を解消できる。

(5)新規性又は進歩性喪失の猶予は優先権の効果とは異なり、猶予期間では、他人による、同一の発明の公開或いは特許出願があれば、特許出願に係る発明は、依然として新規性又は進歩性欠如により拒絶されることになる(下記【例2】)。

【例2】


 

説明:

上記【例2】のように、出願人Aが、本意による発明aの公開から12か月内に特許出願したとしても、その猶予期間内で他人Bの独立開発に基づく発明bの公開或いは特許出願がある場合、発明aが、依然として新規性又は進歩性欠如により拒絶されることになる。

二、中国の規定について

基本的な定義は台湾の規定と変わらないが、公開の態様及び書類の提出期間が限られている点で台湾と異なる。以下、主に相違点を中心に説明する。

1、専利法の規定(24条)

特許出願に係る発明創造が出願日(優先権の主張を伴う場合、優先日とする)前の6ヶ月以内に、下記の項目の一つに該当する場合、新規性は喪失しないものとする。

(1)国が緊急事態又は非常事態の情況下にあり、公共の利益のために最初に公開された場合。
(2)中国政府が主催した又は承認した国際展覧会で最初に展示した場合。
(3)指定された学術会議又は技術会議で最初に発表した場合。
(4)他人が出願人の同意なしにその内容を漏らした場合。

 

上記項目(1)は、新型コロナウィルスの影響による非常事態に対応するために新設されたものである。例えば、関連医薬品などに係る発明が出願前に公開した場合、当該発明はこの規定に基づいて、新規性又は進歩性喪失の例外の猶予が適用できる。

2、審査要件

上記のように、この規定を適用するために、

(1)出願人が公開の事実の発生から6ヶ月以内に特許出願すること、
(2)その公開態様は、上記規定の(1)~(4)の一つに該当すること、
(3)特許出願と同時に主張し、特許出願後2か月以内に証明資料を提出すること

との三つの要件を満たす必要がある。

3、留意事項

(1)台湾の猶予期間は1年であるのに対し、中国の猶予期間は6ヶ月と短い。また、猶予期間の起算日について、台湾の場合は出願日であるのに対し、中国の方は、優先権の主張を伴う場合、優先日とする。
(2)上記規定の(1)~(4)の一つに該当するための認定はかなり厳しい。例えば、「中国政府が主催した国際展覧会」とは、中国国務院、各部委員会が主催した国際展覧会、又は国務院が許可した、その他の機関もしくは地方政府が主催した国際展覧会である。また、その証明資料は、展覧会の主催単位が発行したものでなければならなく、更に、証明資料には、展覧会の開催日、場所、展覧会の名称、及びその発明が出展した日、形態及び内容が明記されていなければならず、さらに、公印の押印も必要である。その他、例えば、「中国政府が承認した国際展覧会」、「学術会議又は技術会議」などの定義も詳しく規定されている。

 

三、日本の規定について

日本の関連規定はほぼ台湾の規定と一致しているが、主な相違点は、時期的要件が限られていることである。以下、主に相違点を中心に説明する。

1、特許法の規定(30条)

(1)特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至った発明は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかったものとみなす。
(2)特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至った発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
(3)前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至った発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

 

2、審査要件

従って、この規定を適用するために、権利者の行為に起因して公開された場合(第2項)と、発明が意に反して公開された場合(第1項)との二つの場合がある。

まず、権利者の行為に起因して公開された場合

(1)権利者の行為に起因して公開された発明の公開日から1年以内に特許出願すること、
(2)特許出願時に発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出すること、
(3)特許出願の日から30日以内に、発明の新規性喪失の例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面を提出すること、

との三つの要件を満たす必要がある。

 

次に、発明が意に反して公開された場合には、発明の公開日から1年以内に特許出願すれば、第1項の規定の適用を受けることができ、第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面の提出や、「証明する書面」の提出の必要はない。

3、留意事項

上記内容からもわかるように、台湾の規定と日本の規定とはほぼ一致しているが、最も大きな相違点は、出願時の主張を時期的要件としない台湾の規定に対して、日本の規定によれば、出願人は、この規定を受ける旨を記載した書面を特許出願と同時に提出し、更に証明書を許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない点である。

このため、日本で特許出願する時に、この規定の適用を主張する場合、特許出願と同時にその旨を記載した書面を提出しなければならなく、出願後の提出が認められない点を、留意する必要がある。

四、まとめ

1、上記の説明によれば、以下のように、台湾、中国、日本における新規性喪失の例外に関する内容をまとめる。



 

2、結論

(1)以上の説明のように、台湾では新規性又は進歩性喪失の例外規定を主張する場合、出願時の主張を時期的要件としないが、将来、審査時或いは無効審判時に引用文献/証拠として提起される場合に備えるために、全ての関連証明資料を保存しておくことがよい。
(2)新規性又は進歩性喪失の例外に係る規定は国毎に異なり、例えば台湾と日本の規定においては一致点が多いが、中国では公開態様、猶予期間、起算日などの面で台湾及び日本と異なっている。従って、発明を特許出願前に公開する必要がある場合、必ず出願予定の国の関連規定を十分に把握してから、発明の公開をすることが肝要である。
(3)また、以上にも説明したように、特許出願前に公開して新規性喪失の例外規定を適用できる発明でも、猶予期間で、他人が同一の発明について特許出願或いは公開していた場合、特許を受けることができななくなる点を、十分に注意する必要がある。

 

ここまで説明したように、各国の規定の違い、猶予期間での他人による同一発明についての出願或いは公開などのリスクを考慮すると、できるだけ発明の公開前に特許出願を済ませておくことを勧める。また、やむを得ず、特許出願前に発明を公開するニーズがあり、新規性喪失の例外規定の適用を主張した場合でも、公開してからできるだけ早い時期に特許出願をすることを勧める。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。

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