本ウェブサイトは情報提供のみを目的としており、法的アドバイスやサービスを構成するものではありません。また、この情報は、必ずしも当所またはそのクライアントの意見を表すものではありません。法的及び知的財産に関するアドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。
本ウェブサイトでは、利用者の閲覧体験を向上させるためにCookieを使用しています。本ウェブサイトを閲覧し続けることにより、お客様はCookieの使用に同意するものとします。

機械翻訳及び先行技術

機械翻訳及び先行技術

機械翻訳は、その発展に伴い、特許審査において普及しつつあり、公的機関にも認可されるようになってきた。例えば、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization, WIPO)

More Details

BY 劉映秀

一、前言
機械翻訳は、その発展に伴い、特許審査において普及しつつあり、公的機関にも認可されるようになってきた。例えば、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization, WIPO)、ヨーロッパ特許庁、日本特許庁においては、それぞれ独自の、またはお互いにサポートできる機械翻訳システムが設けられ、そのうちの、ヨーロッパ特許庁のPatent Translateは、Googleと連携しており、特許文献のデータベースの完備性さ、及び翻訳技術の成熟性のいずれのにおいて優れていて、各国の審査官と出願人によく利用されている特許機械翻訳システムである。
二、機械翻訳と人間による翻訳
機械翻訳と人間による翻訳はぞれぞれ長所があり、互いに補い合う関係であるべきである。高度な精確さが求められかつ流暢さが要する場合、細心で優秀な翻訳者に機械翻訳は到底適わないが、大量な書類を翻訳する際に、適当に機械翻訳を利用することがある。特許業界の実務を例にした場合、特許明細書に請求の範囲が含まれており、これは技術の開示や権利の保護範囲に係わるものであることから、審査及びその後の紛争の段階において細かく解読されるので、専門技術と言語能力の両方に長けている者により翻訳する必要がある。一方、同じ発明内容であっても、出願人は、異なる国で異なる権利範囲を考えることがあり、それにフォーマット、特許を受けることができない発明、多数項従属クレームの受容の可否に係る規定も各国ではそれぞれ異なっている。また、ページ数と請求項の数が一定数量を超えた場合の追加料金に対する出願人の受け入れ度、各国の追加料金の基準、及び計算方式もそれぞれ異なる。さらに、複数の優先権を主張して、A言語にて提出した案件にある複数の特徴を、B言語にて提出した一つの案件にまとめることもあることを考えれば、明細書の翻訳は単純な文字転換ではなくなり、品質と職業倫理の面から考えると、出願段階で、明細書全体を機械翻訳で行うことにより効率を求めるのは難しい。以上のことにより、実務上、先行技術の検索では機械翻訳が適している。
三、機械翻訳に関する規定
米国特許商標庁の審査基準MPEP609.04(a)には、出願人が非英語文献の簡易説明をIDS(Information Disclosure Statement)の声明として提出する場合、米国特許商標庁は、「信頼できる機械翻訳」を受け入れるとのことを記載している。特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway, PPH)で、他国での審査結果を提出することにより、審査スピードを向上させようとした場合、米国特許商標庁のウェブサイトにおける問答集には「機械翻訳で作成された英訳文を受け入れるが、審査官がその機械翻訳の品質を理解しにくい場合に、出願人に人間による翻訳(manual translation)を改めて提出させることができる。」と具体的に答えている。この場合、当該訳文の翻訳者についての声明の提出は要求されない。
ヨーロッパ特許庁は、機械翻訳に対する規定をより細かく制定している。ヨーロッパ特許庁審査ガイドラインのG-IV,4.1の規定によると、審査官が先行技術を検索するにあたり、機械翻訳により言語の障害を克服することができ、更に、機械翻訳の訳文を審査意見の依拠とすることができる。機械翻訳の訳文が作成された際に自動的に生成された「全般的に信用してはならない」との一般的な陳述では、審査官が機械翻訳を利用する合理性を否定することができないと共に、文法または語意の誤りも、当該訳文の効力を否定することができない。審査官が引用した機械翻訳の訳文の精確性に疑問を持ち、その審査意見について異議を有する者は、立証責任を負うべきであり、全文または部分的に改良した翻訳(improved translation)を提供し、元の訳文に審査の根拠とすることができないほどの欠陥が存在していることを具体的に証明すべきである。
四、機械翻訳が特許審査への影響
一般的な実務経験から見れば、審査官がよく機械翻訳を利用する段階は、先行技術を検索する段階であり、出願人が審査意見を受け取った際に、殆どは審査官が引用した機械翻訳により先行技術を理解して答申を提出している。一方、出願人/代理機関がよく機械翻訳を利用する段階は、先行技術を提出する段階である。2019年のオーランドMaastrict大学の博士論文Translation Accuracy and Dissemination of Disclosure of Paten Informationには、論文の作者が各国何十人の審査官、裁判長、特許代理人、翻訳者を取材して、先行技術を検索する段階では、機械翻訳の利用率は80%まで至り、人間による翻訳は20%しかないというデータが記載されている。さらに、職業倫理を守り、個人と案件情報を公開しない前提で、取材を受けた者達の、翻訳を取得する際に経験した難点をシェアした。その中で、特に注意すべきことが二つある:(1)同じ先行技術であっても、異なる特許庁の機械翻訳システムを利用して取得した訳文はかなり異なっていること;(2)先行技術の原文のある段落の意味が明確ではないことから、機械翻訳または人間による翻訳のどちらによっても、その内容を徹底的に理解することができない。しかしながら、当該先行技術が鍵であり、存在していなければ、その出願は新規性があると判断できる。
特許ファミリーの中に直接理解できる言語のバージョンがあれば、審査官は優先的にそのバージョンを参考することになるが、一旦機械翻訳を利用したら、自分が選択した機械翻訳を信用する傾向があり、機械翻訳の訳文が理解できない場合のみ、他の解決方法を求める。翻訳の欠陥または手落ちは、それがスラスラ読めないだけであって、通常知識を持っている者は文脈から誤りと判断できるのか、それとも技術内容の解読に影響を及ぼすのか、機械翻訳を使う者はすぐに把握できないかもしれない。結果的に、「翻訳の問題は、文言の開示が十分かつ明確であるか否かとの形式的な問題を遥かに超えて、新規性と進歩性の判断を影響できるほどのものとなる。」との懸念に直面しなければならなく、鍵となる引例の翻訳バージョンはその後の訴訟段階でチャレンジされる可能性もある。この論文のインタービューの統計によると、異議段階及びその後の侵害訴訟の段階では、人間による翻訳と機械翻訳を使用する割合が50%:50%であった。
五、結論
本文で言及した二つの、機械翻訳の訳文の代わりに改めて訳文を提出する場合の一つは、米国特許商標庁が改めて「人間による翻訳の訳文」の提出を要求することで、もう一つは、ヨーロッパ特許庁が改めて「改良翻訳の訳文」を提出することを要求することであって、後者は他の機械翻訳システムで生成した訳文を前に提出した機械翻訳の訳文の代わりとする可能性を排除しないということになる。同じ機械翻訳システムでも、データベースの拡大とアルゴリズムの改良により、同じ原文に対して、数か月後、数年後には異なるバージョンの訳文が生成され得る。例えばヨーロッパ特許EP1848203においては、異議を申立された後の上告段階にて、特許権者は特許異議申立人が提出した日本語の証拠の英訳文が精確ではないと主張し、新たな英訳文を提出した。この二つの英訳文は両方とも日本特許庁の機械翻訳システムで翻訳されたものであるが、特許権者が、後に提出した訳文の方が精確であることを主張した。結局、ヨーロッパ特許庁の新規性に対する認定を覆すことにはならなかったが、ヨーロッパ特許庁はその英訳文を比較した結果、後に提出した新しい訳文を根拠とすることを承認した。実務上、機械翻訳に対して新たに考えるべきではないかと考え、それは、機械翻訳と人間による翻訳が互いに補うだけではなく、機械翻訳と機械翻訳の間にもこのような関係があると、私は考える。
参考資料:
1.Aline Azevado Larroyed. Translation Accuracy and Dissemination of Disclosure of Pate Information. Maastrict University. 博士論文。2019.09.25口頭試問。
2.USPTO. “Frequently Asked Questions: General PPH” https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/FAQ%20for%20PPH%20final-%2004192018.pdf. 2018.04.19. 

Line Line
Line Line
Line Line
Line Line