本ウェブサイトは情報提供のみを目的としており、法的アドバイスやサービスを構成するものではありません。また、この情報は、必ずしも当所またはそのクライアントの意見を表すものではありません。法的及び知的財産に関するアドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。
本ウェブサイトでは、利用者の閲覧体験を向上させるためにCookieを使用しています。本ウェブサイトを閲覧し続けることにより、お客様はCookieの使用に同意するものとします。

通常の知識を有する者の知識レベルにより進歩性の判断が影響される

通常の知識を有する者の知識レベルにより進歩性の判断が影響される

「通常の知識を有する者」と言えば、発明の技術分野において通常の知識を有すると共に、定常的な作業、実験を行うような通常の能力を持つ人間であることから、通常の知識を有する者が、出願前の先行技術を利用して当該出願の技術方案を完成し得る場合には、該出願の進歩性を判断する際に悪影響を及ぼす恐れがある。

More Details

BY 吳煌烈

「通常の知識を有する者」と言えば、発明の技術分野において通常の知識を有すると共に、定常的な作業、実験を行うような通常の能力を持つ人間であることから、通常の知識を有する者が、出願前の先行技術を利用して当該出願の技術方案を完成し得る場合には、該出願の進歩性を判断する際に悪影響を及ぼす恐れがある。それに対し、通常の知識を有する者に属さない者(例えば、専門家)は、該出願の進歩性の判断に影響を及ぼさない。本文においては、2021年4月に合衆国連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit, 以下CAFCと言う)の判決により、通常の知識を有する者の認定について研究する。

はじめに

McCoyは、係争特許(US9,790,779)の特許権者であり、係争特許は、流体の圧力によりガスセパレータと特定サイズの排気管とを連接するポンプを用いた、オイル/ガス井用の装置と方法である。これに対し、HEAL Systemは、係争特許の有効性について当事者系レビュー(inter partes review, IPR)を請求し、その後、特許審判部(Patent Trial and Appeal Board, PTAB)は、HEAL Systemの意見を受け入れた。一方、特許権者は、PTABの判決に不服があるので、CAFCへ上訴し、その上訴の主張の一つが、「当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(person having ordinary skill in the art)の認定に誤りがある」であった。

PTABでの審理

 

HEAL Systemより、「通常の知識を有する者に係る定義」との専門家の証言が提出されており、PTABは、該定義を受け入れたが、特許権者は、該定義における、「通常の知識を有する者が、専門家と意見交流することができる」との主張に対して異なる意見を持つ。審理を行った結果、PTABより、「通常の知識を有する者と言えば、発明する時、機械、石油又は化学工程の分野において、理学修士の学位を有し、或いは、それらに関する学位を有すると共に、これらの分野で少なくとも3~4年間の実務経験を待つ者である」との結論が出された。PTABは、特許権者の異なる意見を参酌したが、依然としてHEAL Systemからの専門家の証言を採用し、更に、PTABは、「通常の知識を有する者が、専門家と意見交流を行ったとしても、通常の知識を有する者の身分が変わることなく、また、特殊の分野で、通常の知識を有する者が専門家と意見交流を行う必要が確実にある」との意見が出された。特許権者がそのPTABの決定に不服として、CAFCに上訴した。

CAFCでの審理

特許権者は、PTABの「意見交流」と、「他の専門家と相談できる能力を持つ」ことにより、通常の知識を有する者を定義する意見に誤りがあり、また、PTABの審理において、専門家の知識(通常の知識ではない)をキーポイントとすることは、後知恵になると共に、不適切に専門家の意見を取り入れることにより、係争特許の新規性及び進歩性の判断において、正しくない判断が出る恐れがあると主張した。これに対し、CAFCより、「通常の知識を有する者にとって、“通常”の知識と、“専門家”の知識とは、対比の関係を持ち、専門家と言えば、その専門の知識に係る範囲での特定問題又は争議に対して公正な見解を提供する人間である」との意見が出され、また、前記PTABにおける「通常の知識を有する者の定義」に関する意見に対し、CAFCは、該“通常の知識を有する者の定義”に専門家の知識を取り入れていないと判断した。

一方、係争特許の技術分野からみると、通常の知識を有する者が、専門家の助言、助力に頼ることができ、例えば、通常の知識を有する者が地震学者からの助力を適切に頼って地震に関する試験を行うことできるが、当該技術分野ではない専門家からの助力に頼ることは適切なことではない。HEAL Systemからの専門家は、よく通常の知識を有する者に対して、他の技術分野の専門家と多いに意見交流を行うよう薦めているし、特許権者の方からの専門家も、一般の技術者に対して指導を行うことがしばしばあるが、そうしても一般の技術者が専門家になることはないことを認めている。よって、CAFCは、「PTABの判決は、通常の知識を有する者の視点から、係争特許の特許性を判断するものである」と認定した。

まとめ

特許性をめぐる争いにおいて、引例の他、通常の知識を有する者が齎す知識のレベルも、争点の一つとすることができることから、充分な証拠を備えて通常の知識を有する者の知識のレベルではないことを証明できれば、特許要件の判断に対して、異なる結果が出るかもしれない。

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。


 
 
Line Line
Line Line
Line Line
Line Line