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特許(実用新案、意匠)を受ける権利を有しない権利者に対して、不当利得として権利の移転を請求できるか

特許(実用新案、意匠)を受ける権利を有しない権利者に対して、不当利得として権利の移転を請求できるか

「専利(特実意を含む、以下同)権」とは、専利を受ける権利を有する者が特許庁に出願し、特許庁の実質審査または方式審査を経て、登録査定が発されてから、初めて取得できるものである。

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「専利(特実意を含む、以下同)権」とは、専利を受ける権利を有する者が特許庁に出願し、特許庁の実質審査または方式審査を経て、登録査定が発されてから、初めて取得できるものである。前記の、「専利を受ける権利」とは、専利法(注1)の規定に従って、専利出願をする権利である。専利を受ける権利を有する者は、法に別段の規定がある場合、又は契約に別段の約定がある場合を除き、発明者、実用新案の考案者、設計者又はその譲受人や相続人を指す。この点は、専利法の第5条に明確に規定されている。それによると、専利を受ける権利と専利権とは、標的が同一であり、専利を受ける権利は、専利権が成立する前の段階的な権利であることが分かる。また、同第6条第1項の規定によると、いずれも、譲渡または継承可能である。故に、専利を受ける権利も、専利権と同様、私権である。
 

台湾の行政裁判所89(2000年)年度判字第1752号判決の見解によると、「現行する規定(同法第22条第1項、第105条、第122条)によると、専利出願できる者は、専利を受ける権利を有する者でなければならない。一方、特許庁が出願を審査する際に、同法第5条、第7条、第8条などの規定に従って、出願人が専利を受ける権利を有する者であるかを判断する必要はあるが、この判断は、専利を受ける権利が私権としての帰属を確認する効力を有しない。故に、特許庁は、出願人が提出した資料に基づいて、それを真の専利を受ける権利を有する者であると判断し、かつ、その出願が専利要件を満たしていると判断した上で特許査定、公告した後で、利害関係者が現れて、自分こそが真の専利を受ける権利を有する者であると主張し、証明書類を提出して異議申し立てをした場合、私権帰属の争いが発生することになる。この際、証明書類だけで出願人が専利を受ける権利を有する者である判断を覆すのに足りる場合を除き、特許庁は、私権争いに係る専利を受ける権利の帰属を決めてはならない。故に、専利を受ける権利及び専利権の帰属を巡る争いがあった場合、民事訴訟を以って解決すべきである。ただし、民法第179条の不当利得に係る規定に従って、専利を受ける権利を有しない権利者に対して権利の移転が請求可能であるかは、以下の事例を参照して説明する。
 

台湾の知的財産及び商業裁判所の109(2020年)年度民専上字第40号判決において、当事者双方の間には、被雇用者が職務において完成した発明、実用新案、意匠の専利を受ける権利及び専利権の帰属について定められていないので、専利法第7条第1項の規定により、被雇用者が職務において完成した発明、実用新案、意匠は、職務発明(実用新案、意匠)であるため、その専利を受ける権利及び専利権は、雇用者に帰属する。また、当該判決によると、「法律上の原因なく利益を受け、そのために他人に損失を及ぼしたものは、その利益を返還する義務を負うことは、民法第179条に明確に規定されている。また、不当利得の成立は、被害者による給付行為に限らず、被害者の給付以外の行為によって、受益者が利益を受けた場合でも、不当利得が成立する。これによれば、専利権は無体財産権であり、受益者が法律上の原因なく、専利を受ける権利が他人に帰属する創作を、自分の名義で出願して専利権を取得し、他人に本来有すべき財産権の損失を受けさせた場合、受益者の不当利得が成立するので、当該他人は、民法第179条の不当利得に係る規定に基づいて、受益者に対して該財産権を返還するよう請求できる」とのことである。
 

上記の事例において、真の権利者でない者が自分の名義で出願して登録されているので、真の権利者が不当利得の法的関係に基づいて、係争権利の移転を請求したのは、理由があるとされた。しかしながら、最高裁判所109(2020)年度台上字第2155号判決において、若干、見解の違いが見られている。この判決において、「専利権は、特許庁が行政権に基づいて許可したものであり、知的財産事件を審理する民事裁判所は、行政権の行使については、法に適う監督しか許されず、代わりに自ら行政行為を行ってはならない。故に、民事裁判所は、知的財産案件審理法の規定に従って、専利権の権利帰属や専利を受ける権利の権利帰属の争いにおいて、専利権に取り消しまたは廃止の理由の有無につき自ら判断できるが、その判断は補充的な立ち位置に過ぎず、専利権について、自ら取り消しまたは廃止をする権限はない。真の創作者と冒認の権利者との間で専利権の権利帰属の争いが発生した場合、雇用者と被雇用者との間に、専利法第10条の規定に従って特許庁に権利者の変更を申請した場合や、当事者の間で専利権の譲渡の協議が成立した場合を除き、真の創作者は、係争案の公告後の2年内に、権利者が専利を受ける権利を有しないとして無効審判を提出し、また、無効審判による取り消しが確定後の2か月内に同一の創作について専利出願し、当該取り消しが確定した専利権の出願日を出願日とすることしかできない。真の創作者は、特許庁が法に沿って専利権を付与する前に、創作者の専利権が冒認の権利者に侵害されたとして、侵害行為に係る規定に従って、原状回復を求め、該専利権の真の創作者への返還を請求できるのか?また、不当利得とは、法律上の原因なく利益を受け、そのために他人に損失を及ぼしたことを指しており、受益者が受けた利益と被害者が被る損害との間には、因果関係の存在が必要である。冒認の権利者が取得した専利権は、特許庁が付与したものであり、真の創作者は、特許庁が法に沿って専利権を付与する前に、その損害が当該専利権に該当するとして、その返還を請求できるのか?これらの点は、何れも更に検討する余地がないとは言えない」と判断したので、原判決を破棄して原審に差し戻した。
 

以上のことから、最高裁判所は、この類の事件において不当利得を主張することに対して、比較的に非賛同的な態度を取っているように見受けられる。そうである場合、真の創作者の取れる救済手段は制限されるが、最高裁判所の見解の傾向を知るだけでも、救済を検討する際の参考にできる。知的財産及び商業裁判所の109(2020年)年度民専上字第40号判決の事件についての最高裁判所の見解は、今後、引き続き観察する価値があると言えよう。
 

※詳細については、ipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。
 

注1:台湾では、特許、実用新案、意匠に関して、別々ではなく、「専利法」においてまとめて規定されている。 

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