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出版品(特実意)
知的財産事件審理法が2023年8月30日に改正、施行される前に、既に裁判所に係属している知的財産民事事件において、裁判所が必要と判断した場合、他方の請求により、秘密保持命令を受けていない者に秘密保持命令を発することができる (2024/04/30)

編集部

専利法第1条の規定には、「発明、実用新案と設計の創作の奨励、保護、及び利用を図ることにより、産業の発達に寄与する目的をもって、本法を制定る。」ことが定められています。このことから特許制度の本質は、技術内容を文字化し、関連規定によりその保護範囲を確立することで、開発者の技術公開意欲を高め、産業と開発者で共同発達という目標を達成することにあることがわかります。

しかしながら、技術を保護する方法としては、特許法の関連規定に頼るほかに、営業秘密の形式で保護を求めることも選択肢の一つであります。言い換えますと、技術的事項に係ることであれば、営業秘密に関する懸念があることは、専利訴訟において、よく見られることであります。そのため、知的財産案件審理法第36条に秘密保持命令に関する規定が設けられています。2023年8月30日に改正、施行された知的財産案件審理法において、改正前の旧法第11条の規定以外に、現行法第36条第3項において、「裁判所は、秘密保持命令の発令が必要であると認めるとき、当事者又は第三者に第1項の規定に基づき申立てを提起するよう諭告したにも関わらず、なおも申立てをしない場合、裁判所は他方当事者又は当事者の請求により、当事者又は第三者の意見を聴取した後に、第1項の秘密保持命令を受けていない者に対し秘密保持命令を発することができる。」ことが増訂されました。また、現行法第75条第1項には、「2023年1月12日に改正された条文の施行する前に、既に裁判所に係属している知的財産民事事件は、改正前の規定を適用する」ことが明記されています。

これらの規定から、知的財産案件審理法が改正される前に既に裁判所に係属している知的財産民事事件は、他人が秘密保持命令を請求したとき、裁判所は許可する裁定を下せるのか?これについては、最高裁判所2023年度第1475号の民事裁定の件を参考にするとよいです。該案件は、営業秘密保持者が提出した社内の研究開発資料が営業秘密であるとして、相手方の訴訟代理人に対して秘密保持命令を請求し、その請求が認められたと裁定されたものであります。その後上告段階では、相手方は別の訴訟代理人を任命し、秘密保持命令の発行を要求しましたが、この請求に対し、営業秘密保有者はリスク管理の負担が増えることを理由に同意を拒否したものの、本件で発せられた秘密保持命令の一貫性を維持すると共に、相手方の訴訟権、及び別に任命した訴訟代理人が文書を閲覧する権限等の訴訟上の権益を保護するために、裁判所は資料の開示や使用を制限する必要があると判断しましたので、この裁定においては依然として秘密保持命令を発しました。

前記裁定からみますと、秘密保持命令制度の導入は、当事者または第三者が保有する営業秘密を保護すると共に、他方当事者又は当事者の答弁の権利の保障、並びに裁判所に情報を提出することによる営業秘密の漏洩を防止することを兼備するためのものであり、これにより、営業秘密保有者の訴訟への情報提出の促進になり、裁判所にとって適切な判決を下せる手助けとなります。故に、秘密保持命令を受けるべきである対象の範囲をより明確にするために、2023年8月30日に改正、施行された知的財産案件審理法において、第36条第3項が増訂されました。また、前記裁定においては、更に「同法第75条第1項の規定により、1月12日に改正された条文の施行する前に、既に裁判所に係属している知的財産民事事件は、改正前の規定を適用するが、上記追加規定に関する立法政策や、社会的価値、法制度の精神を考慮しますと、上記追加規定は、物事の本質、及び公平と正義の原則に合致し、価値判断において当然或いはそうあるべき原理であることから、法理として引用され、改正前の裁判所に係属している知的財産に関する民事事件にも適用することができる」ことを指摘しています。従って、他方当事者或いは当事者の答弁の権利を保障すると共に、訴訟過程を効率的に進めるために、裁判所が受理した知的財産に関する民事事件が、知的財産案件審理法が改正される前に既に係属している場合には、他方当事者或いは当事者の要求に基づき、当事者又は第三者の意見を聴取してから、秘密保持命令を受けていない者に対して秘密保持命令を発することができ、これにより、双方の訴訟権の保障を実現し、公平性及び合理性の目的を達成できます。

以上のことから、前記案件の背景事実にはそれぞれ特殊性があり、かつ前記裁定における関連法律や法理の適用についての見解は稀ではあるが、答弁の権利を保護し、訴訟手続きの効率化を図るという点では積極的な意義があります。知的財産案件審理法の改正前に裁判所に係属している民事事件について、秘密保持命令を請求するか否かを判断する場合に、前記裁定は実務者が類似案件を扱う際の参考となると思われます。

※ご不明点がございましたら、お気軽にipdept@taie.com.twまでお問い合わせ下さい。

  

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