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事例(商標)
合理的使用/先使用権の実例


前言

商標権を取得すると、商標権者の専用権及び他人の使用を排除する権利が付与されるが、市場における自由競争を妨げないようにするため、及び先登録主義と先使用主義との間のコンフリクトのバランスを保つために、商標の専用権の効力をある範囲で制限する必要がある。故に、商標法第36条においては、他人の登録商標を合理的に使用できる場合についての規定が設けられている。以下の係る判決を参照されたい。
 

知的財産裁判所101(2012)年度民商上字第12号民事判決の概要(叙述性の合理的使用)

 
原告(上訴人)の係争商標
被告(被上訴人)の商標
登録番号
135012
1489626
商標見本
 
 
出願年月日
1999年11月30日
2010年11月19日
権利存続期間
2000年12月16日から
2020年12月15日まで
2011年12月01日から
2021年11月30日まで
指定商品/役務
第42類(旧台湾分類):
ステーキ専売レストラン、レストラン、飲食店、軽食堂、冷熱飲料店、コーヒーショップ。
 
第43類:
ステーキハウス、冷熱飲料店、飲食店、軽食堂、氷菓店、コーヒーショップ、飲食サービスの提供等。

主  文

本件上訴を却下する。
訴訟費用は上訴人の負担とする。

事 実

上訴人が所有している登録第135012号の係争商標は、知的財産局によって更新登録が許可され、その権利存続期間が2020年12月15日まで更新されたものである。被上訴人は、「重量級」との語をその「史堤克重量級ステーキハウス」の加盟店の店頭看板、宣伝書類及びその他の企画・広告資料に明らかに使用しており、消費者に混同を生じさせるため、新北市で「重量級ステーキハウス」とのレストランを経営している上訴人は、2011年6月15日に被上訴人に対して該侵害行為を止めように警告状を提示したが、拒絶されたことから、商標法第61条第1項の規定により、訴訟を提起した。また、損害賠償の請求について、被上訴人の加盟広告によると、加盟料のうち、看板費用はNT$100,000であり、教育訓練費用はNT$200,000である。尚、被上訴人は14軒の加盟店を所有しているので、上訴人は本来であれば、損害賠償額としてNT4,200,000(計算式:NT$300,000x14=NT$4,200,000)を請求することができるが、そのうちのNT$1,500,000のみ請求する。

判決理由

「重量級」という言葉は、そもそもボクシングや重量挙げなどの競技における階級の一つを指すものであるが、現在は主体の分量や地位を表すものとして、日常生活においても頻繁に使用されている。例えば、ある重要な人物に対して、「重量級の人物」と称することもある。しかしながら、「重量級」との三文字を主体なしに使用する(即ち、『重量級の「人物」』又は『重量級の「ステーキ」』ではなく、主体のないままの「重量級」のみ使用する)場合、該三文字は、識別力を有するものであるのか、若しくは他の人、事、物と区別できるのかという問題がある。このように、「重量級」との三つの文字は、既に日常生活の用語として使用されていることから、該三文字を主体なしに使用する場合、消費者は「重量級」に該当する対象が分からなく、言い換えれば、消費者は、該三文字のみから「重量級」に該当する者、事、物を理解することができなく、「重量級」である対象を確認、識別させる機能も有しないため、識別力を具備していないものと言える。故に、上訴人は、本来ボクシングなどの試合で使用する階級の区別用語(即ち、「重量級」の三文字)をステーキの飲食店に使用し、該商標を隠喩の方式でステーキの商品若しくはそのサービスの品質、効用又はその他の成分、性質などの特性を暗示することにより、「暗示的標識に該当するので、識別力を有するものである」と主張したが、係争商標は、「重量級」の三文字を牛の頭部のデザイン化された図案と併せて使用しているので、全体として識別力を有するものと認定することができる。しかしながら、係争商標における牛の頭部のデザイン化された図案及びナイフとフォークの図形を除けば、上訴人の主張した通り、「重量級」の三文字は、ステーキのサイズの大きさを暗示していることから、商品又はサービスの品質、効用又はその他の成分、性質などの特性に関する説明を表示するものとなるので、識別力のある商標と認められるか否かについて、疑問を抱かれる恐れがある(商標法第29条第1項第1号を参照)。故に、「重量級」の三文字については、字面から見れば商品の品質、特性に関する説明を表していることから、識別力を有するものとは認められないので、上記上訴人の主張は容認できない。

知的財産裁判所99(2010)年度民商訴字第10号民事判決の概要(叙述性の合理的使用)

 
原告の係争商標
登録番号
1059659
商標権者
甲○○
商標見本
 
出願年月日
2002年10月24日
権利存続期間
2003年10月01日から2023年09月30日まで
指定商品/役務
第16類:香冥紙(祭祀に用いる紙)、祭祀に用いる紙製品。

原 告:甲○○
被 告:台湾企業・富山檀香股份有限公司
台湾企業・煌大貿易股份有限公司
台湾企業・富之香有限公司
戊○○○○○○○
丑○○○○○○○○
台湾企業・上奇檀香股份有限公司
丁○○○○○○○○
己○○○○○○○○
庚○○○○○○○○
壬○○○○○○○○
癸○○○○○○○
子○○○○○○○
参加人:経済部知的財産局

主  文
 
原告の訴及び仮差し止め請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事  実
 
原告は、「香冥紙(祭祀に用いる紙)」などの商品について登録がなされた係争商標登録第1059659号の商標権者であるが、被告の富山檀香股份有限公司(以下、「富山公司」と称す。)は原告の同意を得ずに、勝手に海外から、係争商標を侵害する祭祀に用いる香冥紙(以下、「係争香冥紙」と称す。)を輸入し、係争商標である「正箔」及び被告の富山公司が所有している登録第1137515号「富山」商標を同時に係争香冥紙に標示したことから、消費者に対し、該商品は原告によって生産・製造・販売されたものであると共に、「正箔」は富山公司のシリーズ商品の商標名称であるとの混同誤認を生じさせる虞がある。また、被告の富山公司は、原告からの同意又は使用許諾を受けていないにもかかわらず、同一又は類似の商品について、係争商標と同一の商標を使用していると共に、商品をその直営店又は加盟店、即ち、他の被告の上奇檀香股份有限公司(以下、「上奇公司」と称す。)などに大量に提供し、且つ市場において低価格競争の手段を取ることにより、原告の係争商標に損害を与えている。故に、原告は、2009年11月6日に被告の富山公司及び上奇公司へ警告状を提示したが、無視されたので、商標法第29条第2項、第61条第1項及び第2項、第63条、民法第28条、第185条、並びに会社法第23条第2項の規定により、被告に対して損害賠償を請求する。

判決理由

本件係争香冥紙の商品については、確かに登録第1137515号「富山及び図形」商標及び「16刈、正箔」との文字が標示されていると共に、被告が提出した計五つのタイプの同業の香冥紙商品を観察すると、以下に示すように、各自の商標以外にそれぞれ、「12刈錫箔」、「九金12刈」、「12刈大箔」、「16刈正箔」、「12刈大箔」との文字が商品の側面に付記されているが、それらの文字は、商標として使用されているものではなく、消費者に参考にしてもらうために、商品の名称、品質又は規格を説明するものであることが判明した。故に、係争香冥紙おける「正箔」は、商標の使用に該当するものではないと判断すべきである。

1. 麒麟牌12刈錫箔
2. 正箔牌九金12刈産地台湾(原告の製品)
3. 麒麟牌12刈大箔
4. 富山檀香16刈正箔(被告の製品)
5. 唐品貞観12刈大箔

また、係争香冥紙の側面に標示された「富山及び図形」及び「16刈、正箔」について、「正箔」は、「富山及び図形」より字体が小さく、「16刈」の下に位置しているので、商品の説明文字と言えるのに対し、「富山及び図形」は、明らかに係争香冥紙に標示されていることから、消費者は該商品を表彰する商標と認識し、他人の商品と区別できることから、混同誤認を生じさせる虞はないと認められる。更に、原告の商品のパッケージには、「正箔」の文字が印刷されている一方、被告の商品のパッケージには、「正箔」の文字が印刷されていないことから、被告は、主観的に原告の係争商標を模倣する意図はないと判断できる。
 
更に、張益銘氏の著作である≪金銀紙秘密≫(晨星出版社による)の116ページの記載によると、金紙の錫箔は、大箔、小箔、正箔、アルミ箔、箔押しに分類され、刈金は、8切、12切、16切などのサイズを有すると共に、該作者は、1982年に既に金銀紙に関する調査を行っており、それは係争商標の登録日である2003年10月1日より20年以上も前であるので、「正箔」などの金紙の錫箔における種類の名称は、係争商標の登録前に既に、公衆に商品の品質を説明するために自由に使用できるものとなっていることが判明した。また、被告は、「富山及び図形、百銀、大箔」と標示された別の商品も販売していることから見ると、全ての商品に「正箔」を標示しているのではなく、商品の性質によって、「正箔」又は「大箔」を標示していることが分かる。
 
上述したように、主観的に言えば、被告は、「正箔」を商標として使用する意図を持っていないと共に、客観的に言えば、係争香冥紙に標示されている「正箔」は、消費者に商標の標識として認識されないため、合理的使用と認められる。また、被告は、「正箔」が原告によって商標登録がなされたものであることを知らなかったと答弁し、これに対して原告側は、反証を挙げなかったので、被告の、『「正箔」を係争香冥紙の品質を説明するものとして善意で合理的に使用している』との主張は信用できる。

知的財産裁判所99(2010)年度民商訴字第42号民事判決の概要(指示性の合理的使用)

 
原告の係争商標
登録番号
210217
商標権者
日本企業・TOTO株式会社
商標見本
 
出願年月日
1982年01月14日
権利存続期間
1983年05月01日から2023年04月30日まで
指定商品/役務
第11類:浴槽、小便器、洗面台、洗面槽、便座、洗浄機能付き便座、乾燥機能付き便座、屎尿浄化槽等。


原 告:日本企業・TOTO株式会社
被 告:台湾企業・東興衛材実業有限公司
台湾籍・施永重、即ち、大興水電材料行

主  文

原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事  実

被告の「東興衛材実業有限公司」(以下、「東興公司」と称す。)は、各種の衛生洗浄設備及び厨房・浴室・トイレの設備用材料の売買に携わっている会社であり、被告の「大興水電材料行(即ち、施永重)」(以下、「大興材料行」と称す。)は、「トイレ及び浴室設備の卸売業」を営業内容としている会社であるが、被告である両者は、原告の同意を得ずに、係争商標をその営業場所の看板に使用していることから、消費者に原告の使用許諾を受けていると混同誤認を生じさせ、原告の著名商標である「TOTO」の識別力及び名誉に損害を与えるため、商標法第61条及び第62条の規定により、本訴を提起すると共に、被告にその看板から「TOTO」を排除させるように請求する。

判決理由
 
被告の「東興公司」は、原告の台湾代理店及び係争商標の使用受諾者である「台湾東陶股份有限公司」と、「TOTO」商品の業務販売委託契約を締結しており、契約の有効期間は、2004年1月31日までとした。更に、被告の「大興材料行」の答弁によると、該社は、「台湾東陶股份有限公司」及び原告の台湾代理店の「荘頭北工業股份有限公司」の技術協力会社であり、「台湾東陶股份有限公司」から購入した「TOTO」商標の商品は、未だ売り切れていないことから、その在庫品を販売するために、看板を係争商標が標示されたまま掲げているが、仮に原告が該在庫品を買い戻すのであれば、看板から「TOTO」を消すことに同意するとのことである。よって、被告は、善意で係争商標を看板に使用したものであり、消費者に商品の出所について混同誤認を生じさせる虞はないと認定すべきである。
また、例を挙げると、自動車点検工場では通常、各自動車メーカーの商標を看板に標示しており、それらの自動車メーカーの車両点検サービスを提供することについては特に説明していないが、関連消費者に特定の自動車メーカーが経営している直営工場又は加盟工場であると誤認させることはないので、合理的使用と認められる。これに基づけば、本件被告の「大興材料行」においても、「ALEX電光牌」、「荘頭北TOP」、「TOTO」の3つの看板が掛けられているが、確かに該3つの商標の商品を販売していることから、合理的使用に該当すると認められる。

台湾台北地方裁判所95(2006)年度智字第69号民事判決の概要(指示性の合理的使用)

原 告:イギリス企業・BURBERRY LIMITED
被 告:台湾企業・東京海渡国際精品有限公司
台湾企業・喜喜貿易有限公司
参加人:台湾企業・網路家庭国際資訊股份有限公司

主  文
 
原告の訴及び仮差し止め請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事  実
 
原告は、被告が経営している台北衣蝶百貨店、中和グローバルモール、台南遠東百貨店、台中衣蝶百貨店などにある店舗で、原告の商標を付した模倣品のマフラーを購買し、原告側が鑑定した結果、それらのマフラーは模倣品であることが判明した。また、被告は、原告の登録商標をその商店の店頭看板に使用していることから、一般民衆に原告の運営している店であると誤認させると共に、原告の名誉を毀損することにもなるため、原告は、公平交易法第20条第1項第2号、第30条及び第31条、並びに商標法第63条第3項の規定により、本訴を提起した。

判決理由
 
商標法第61条第1項には、「商標権者はその商標権を侵害した者に対し、損害賠償を請求することができると共に、その排除を請求することができる。侵害のおそれがある場合は、侵害防止を請求することができる。」と規定されているが、これは故意過失による行為に適用するものである。また、商標法の目的は、商標権及び消費者の利益を保障し、市場において公平な競争を維持し、商業の正常な発展を促進することであることから、商標法の規定に違反し、商標権を侵害した者が、その侵害行為による損害賠償の責任を免れたい場合には、該行為が故意過失ではないことを立証しなければならない。
 
前記模倣品のマフラーは、被告が参加人から購入したものであり、被告はそのインボイスを購買証明として提出することができる。また、参加人は、台湾における市場占有率一位のインターネット通販ウェブサイトの経営者であり、ファッションブランドの商品を数多く販売していると共に、ホームページにおいて商品が真正であることを保証していることから、買い手にとっては信頼できる売り手であると思われる。それによると、被告は、原告と同様の専門知識を有しなく、商品の真偽を判断することは困難であることから、被告の、「既に善良な管理者として注意義務を尽くした」との主張には根拠がある。故に、被告の侵害行為が過失であると原告の主張は、容認できない。
更に、被告が、原告の商標をその看板、店舗などに使用したとしても、それは、「BURBERRY」の下又は右側に小さな文字で「TOKYO JAPAN」、「TOKYO」、「日系」又は「日本東京海渡」などを付したもの、若しくは「BURBERRY」の隣に「COACH」、「Chloe」、「Chloe、DARKS」、「dunhill、COACH、DEARKS」などのような他の商品名称と併用したものであり、また、その広告用フラッグには、「東京海渡BURBERRYシリーズ商品」との語が印刷されており、被告が「BURBERRY」の商品を販売していることを説明するものであることから、原告の商標を使用していることは明白であるので、該使用は、商標法第30条第1項における「合理的使用」に該当するものと認められる。

知的財産裁判所98(2009)年度刑智上易字第40号刑事判決の概要(地域制限なしの先使用権)

 
原告の係争商標
登録番号
18370
商標権者
乙○○
商標見本
 
出願年月日
1985年04月15日
権利存続期間
1985年09月01日から2015年08月31日まで
指定商品/役務
第7類(旧台湾分類):軽食堂、レストラン等。


上訴人(即ち公訴人):台湾台南地方裁判所検察庁検察官
上訴人(即ち被告):甲○○

主  文
 
原判決を棄却する。
甲○○は無罪である。

事  実
 
被告の甲○○は、2005年に、係争商標と類似する「老夫子連鎖牛肉麺飲食」の名称を以って、台南市○○区○○路546号に飲食店(以下、「安平店」と称す。)を設けたことから、係争商標の商標権者である乙○○は甲○○に対し、当該侵害行為を停止するよう警告状を発したが、それを無視するだけでなく、2008年に台南市○○路○段206号に更に支店(以下、「府前店」と称す。)をオープンした。このことから、消費者に係争商標との混同誤認を生じさせる虞があるため、検察官は、商標法第81条第1項第3号の規定に基づき、甲○○を起訴した。
これについて原審は、「被告は、他人の商標権を継続して侵害している事実を有すると共に、商取引の公正を害している」との理由をもって、被告を懲役4ヶ月または罰金に処するとの判決を下した。これに対し、被告側はそれを不服として、「老夫子連鎖牛肉麺飲食」の名称について、係争商標の出願日より早い1979年に既に使用し始めたので、係争商標の権利に拘束されないはずであると主張し、一方、公訴人側は、原判決の量刑が軽すぎると主張して、両者ともに控訴した。

判決理由
 
商標法第31条第1項には、「次に掲げる情況は、他人の商標権の効力による拘束を受けない。……三、他人の商標の登録出願日前に、善意で同一又は類似の商標を同一又は類似する商品又は役務に使用する場合。但し、それは原使用の商品又は役務に限る。その場合、商標権者は該商標を使用する者に対して、適当な区別表示の付記を要求することができる。」と規定されており、当該規定は、改正前の商標法第23条第2項に該当するものであると共に、改正前の条文には、「原製造・販売の規模に限る」との但書を有するが、該但書は、立法院の二読会による条文改正が行われる際に削除されることになった。このことから、上記条文における「原使用の商品又は役務に限る」には、製造・販売の規模に対する制限が含まれていないことになるが、「製造・販売の規模」とは、一体「店舗数」を指すのか、或いは「地域」を指すのかが分からず、言い換えれば、善意の先使用者は、商品又は役務を提供する店の数を増やすことができるのか否か、異なる地域で支店を設けることができるのか否かについて疑義が存在している。
 
上記の事情を踏まえると、本裁判所としては、「原製造・販売の規模に限る」との語は既に立法過程で意図的に削除されたものであるため、「原使用の商品又は役務に限る」との語で、製造・販売又は営業の規模までも拡大制限を行うことは当然ながら認め難い。つまり、本条文の法改正過程において「原製造・販売の規模に限る」との語が削除されたことにより、原製造・販売の規模を制限する意図はなくなったので、改正後の条文における「原使用の商品又は役務に限る」については、地域及び営業の規模に対する制限はないと理解すべきである。また、本条文には、地域及び営業の規模についての制限が規定されていないので、「罪刑法定主義」の原則により、自ら拡大解釈して善意の先使用者の権利を過度に制限すべきではないと共に、刑法の適用を拡大すべきでもない。
 
被告の甲○○は、『1979年から既に「老夫子連鎖牛肉麺飲食」の名称を使用している』と主張すると共に、当時の新聞報道や写真の写しを証拠として提出したので、その使用が係争商標の登録出願より早いことが確認された。このことから、被告は、2005年及び2008年に台南市において「老夫子連鎖牛肉麺飲食」を名称とする飲食店の安平店及び府前店を開き、係争商標と同一の商品又は役務について使用しているとしても、その原使用の商品又は役務の範囲を逸脱するものではないと共に、前述の通り、所謂「原使用の商品又は役務に限る」という規定は、地域及び営業の規模までも制限されたものではないので、上記被告の行為は、商標法第30条第1項第3号の規定に違反していないと認められる。即ち、被告の行為は、善意の先使用に該当することから、告訴人の商標権の効力による拘束を受けないので、被告の行為は、商標法第81条第3項の規定にも違反していないと認められる。

台湾高等裁判所97(2008)年度上易字第805号刑事判決の概要(先使用権)

 
原告の係争商標
登録番号
992609
商標権者
2003年07月01日に
「台湾企業・金田瓦斯器具有限公司」から
「台湾企業・福利瓦斯器具有限公司」へ移転
商標見本
 
出願年月日
2001年04月13日
権利存続期間
2002年04月01日から2012年03月31日まで
指定商品/役務
第11類:換気フード、電気炊飯器、電気扇風機、食器乾燥機、乾燥機、電気冷蔵庫、冷房機、湯沸し器、オーブン、ガスレンジ、保暖器等。
 

主  文
 
原判決を棄却する。
被告の甲○○、乙○○は無罪である。

事  実
 
台北県で「大方廚具歐化精品店」(以下、「大方廚具店」と称す。)を経営している、夫婦である被告の二人は、「婦品」との商標が、「福利瓦斯器具有限公司」(以下、「福利公司」と称す。)が所有しているものであることを知りながら、該商標を模倣すると共に、その模倣商標を付した商品を販売していることから、消費者に対して上記商標権者の製品であるとの誤認混同を生じさせるため、商標法第81条第1項の「商標権者の同意を得ずに、同一の商品に同一の登録商標を使用する」、及び同法第82条の「模倣商標の商品を販売する」との規定に該当する疑いがある。

判決理由
 
調査の結果、「婦品」商標は、以前に「金田瓦斯器具有限公司」(以下、「金田公司」と称す。)によって指定商品の換気フード及び湯沸し器、瓦斯レンジについて登録第380724号(権利存続期間:1987年10月16日から1997年10月15日まで)及び登録第381876号(権利存続期間:1987年11月1日から1997年10月31日まで)として登録された事実があり、当時の該社における実際の責任者である林政峰氏は、1994年10月1日に被告の二人が経営している「大方廚具店」に対して、「婦品」商標を湯沸し器、瓦斯レンジ、換気フードなどの製品の生産・販売において使用することを許諾したと共に、該使用権の許諾期間については、特に定めなかった。なお、前記二つの登録商標は、更新申請がされなかったため、商標権は消滅したが、「金田公司」は、2002年に「婦品」商標を改めて商標登録を出願し、登録第992609号として商標権を取得したと共に、2003年7月1日に該商標権を「福利公司」へ譲渡した。
 
故に、「金田公司」が被告の二人に「婦品」商標の使用を許諾することが、商標主管機関に登録されていなかったとしても、商標法第26条第1項の規定によると、使用許諾の登録は、単に第三者に対抗するための手段であり、使用許諾の効力を成立させるための要件ではないので、被告の二人は、1994年10月1日に「金田公司」から「婦品」商標の使用権の許諾を受けてから、即ち、「金田公司」が2002年に登録第992609号「婦品」商標を取得する前に既に「婦品」商標を同一の商品に善意で先使用しており、また、「福利公司」が「婦品」商標の商標権を譲り受けた後にも使用し続けている事実から見ると、被告は、故意に「婦品」商標を模倣する意図を持っていないと認定すべきである。よって、被告は、商標法第81条第1項及び同法第82条に該当するとは言えない。


参考資料:台湾知的財産局「合理的使用/先使用権の実例」

 

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