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事例(商標)
「HERMES」商標権侵害事件

訴訟標的:損害賠償額の請求
係争商標:「HERMES」
係争指定商品/役務:かばん
引用商標:「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」(バーキン)
関連条文:商標法第61条、第63条、第64条


判決要旨:本案において、押収された係争商標の商標権を侵害した係争かばんは、4つだけであるが、他人商標を盗用した侵害商品は、正規以外の販売ルートを介して取引されることが多く、その実際の販売数量について、侵害者は黙秘することが多いことから、被侵害者の被った損害を計算又は証明できる根拠の提出が困難である。更に、他人商標権を侵害していることが調べられていることを知った侵害者は、手段を問わずに侵害商品の販売を一層加速させ、被害者に更なる損失を被らせることになる。一方、被侵害者が押収できる侵害商品の数が少なく、実際の被害状況については証明できないため、合理的な賠償額を獲得することができない。このことは、公正を失うと共に、前述のような侵害行為を助長することにもなる。故に、本案原告は、商標法第63条第1項第3号に基づき、押収された商標権侵害商品の小売価額単価の500倍から1500倍の金額を損害金額とした計算は合理である。

判決概要:

両当事者の主張

原告フランスのエルメス・アンテルナショナル社は、「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標は、既に消費者に熟知され、著名商標であると共に、そのバーキンシリーズの商品は定番の人気商品である。する。一方、被告は、「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標が原告の登録商標であるを知りながら、2004年12月及び2005年6月に原告の許可なく前掲商標を模倣した4つのかばんを海外から輸入販売した。又、本案刑事2審では、被告は、商標法第61条第1項、第63条第1項第3号及び第64条に基づき原告商標権の侵害と認定されると共に、有罪の判決を下され損害賠償責任を負われた。なお、被告が販売に携わった、原告の登録商標である「HERMES」及び「HERMES及び馬車の図形」商標を付したかばんに係る材質及び色彩は原告のものとは異なり、また、各かばんの販売金額の合計は、NT$205万元(US$68,333)である。このことから、本案の賠償金額を最低の500倍とすれば、原告が被った損失範囲は10億2,500萬元という計算になる。』ことを主張している。

これに対して、被告は、「商標法第63条第1項第1号に規定される賠償の請求権利は、侵害商品の数量が多く、広く販売されるが、実際に押収できる侵害商品の数が極めて少なく、賠償金額と損害金額が見合わない場合には、商標権利者に単位あたりの利益額の500倍から1500倍の賠償金額の請求権利を与えることになっている。しかしながら、本案はは、2005年から4年も経過した今では、市場に流通されているものは、前述の4つのかばんのみであるのにもかかわらず、原告が被告に対して請求した賠償金額は、原告が台湾における8~9年間の売上げ高に相当するものである。従って、原告の請求は、明らかに商標法第63条第1項第3号の規定趣旨に相容れないものである。」と抗弁した。

本案の争点:

原告が請求した損害賠償金額に理由があるか。

判決理由

小売価額単価とは、他人商標権を侵害した商品に係る実際の販売単価のことであり、商標権者自身の商品に対する小売価額単価或いは卸売価額単価のことではない。

商標法第66条(附註)第1項第3号の規定によれば、損害賠償金額とは、「発見し押収した侵害商品の小売価額単価に基づき算定するもの」であり、「侵害された商標権の商品の小売価額単価に基づき算定するもの」ではない。また、本案に係る模造かばんの小売価額単価は、それぞれ23万元、22万元、80万元、80万元などであることから、その小売価額単価は、前記総額の平均値である51万2千5百元にて算定すべきであるので、原告の「小売価額単価を販売総額にて計算すべきである」との主張は却下されるべきである。更に、被告は、本案商標権の侵害期間は約半年であり、侵害商品である模倣品を真正品として高単価で販売する。それに対して、原告が侵害により被った損害及び被告が侵害により取得した利益を考慮にいれると、侵害賠償金額を500倍にて算定するのが妥当であると認定した。そうすると、その損害賠償額は、256,250,000元(計算方式:512,500X500=256,250,000)とし、これを超えた原告の損害賠償金額の請求を却下すべきである。更に、前記条文における損害賠償金額の計算方式は、損害商品の押収が困難であり、かつ、商標権者に対してその被った損害について証明できる証拠を提出が困難となる場合のため規定されたものである。従って、係る損害賠償金額について、該号条文を計算方法として選択した以上、同条同項における第1号及び第2号に規定される「係争商標に係る通常獲得できる利益」、「侵害を受けた係争商標が獲得できる利益」、「係争商標のコスト、必要な支出、若しくは、係争かばんの販売により取得した収入」等の状況に対する立証責任を負う必要はない。

被告は、「被告が台湾士林地方裁判所警察署に起訴された時及び本案に係る刑事判決が出された後、マスコミにより大幅に報道を行われたため、仮に被告が販売した模倣品が他にも市場に出回っているものがあるとしたら、大金を支払った購入者は被告に対し告訴を提起したはずであるが、本案は、2005年に立件されてから既に4年も経過しており、前述の4つのかばんの他に、被告が販売した模倣品のかばんが市場に流通しているのを発見できなかったことから、販売数量を推定できないことはない。又、台湾においては、『バーキンバッグ』の年間販売数量は僅か数十個であるのに対し、原告が被告に対して請求した賠償金額は、原告の台湾における8~9年間の売り上げ高に相当するものである。故に、原告の請求は、明らかに商標法第63条第1項第3号の規定趣旨に相容れないものであるので、原告の主張は採用すべきではない。」とのことを抗弁した。しかしながら、商標法第1条においては、その立法趣旨である「商標権及び消費者の利益を保護し、市場の公正な競争を維持し、並びに工業及び商業の正常な発展を促進するためである」と掲示し、又、商標権者が長期に亘り企業経営に努力を注ぎ込んだ結果である商標及び企業イメージ並びに、営業主体及び出所の表彰、消費者利益を保護することが目的であると共に、企業経営に努力を注がない卑劣な企業が、商標権者の長年市場において心血を注ぎ築き上げた企業イメージを便乗し、低コストの模倣品を真正品として販売し、消費者を混同させ不正な利益を獲得することにより、消費者利益及び商標権者の権利に損害を被らせてしまうことから防ぐためにある。本案において、押収された係争商標の商標権を侵害した係争かばんは、4つだけであるが、他人商標を盗用した侵害商品は、正規以外の販売ルートを介して取引されることが多い。また、侵害者が侵害商品を販売することにより得た利益の多少については、相手の商業秘密であるため、被侵害者の被った損害の多少を計算又は証明できる根拠の提出が困難である。更に、他人商標権を侵害していることが調べられていることを知った侵害者は、手段を問わずに侵害商品の販売を一層加速させ、被害者に更なる損失を被らせることになる。一方、被侵害者が押収できる侵害商品の数が少なく、実際の被害状況については証明できないため、合理的な賠償額を獲得することができない。このことは、公正を失うと共に、前述のような侵害行為を助長することにもなる。故に、本案原告は、商標法第63条第1項第3号に基づき、押収された商標権侵害商品の小売価額単価の500倍から1500倍の金額を損害金額とした計算は合理である。

判決の結果

原告が被告に対し2億5千6百25萬元の賠償金額を請求すると共に、刑事を兼ねた民事起訴状副本が到着した翌日、即ち、2008年9月4日から弁済が完了するまでとする。その利息を年利率5%で計算する。また、本案は理由があると認め、許可すべきである。
附註:原文においては、「商標法第66条」とありますが、恐らく「商標法第63条」のタイピングミスであると思われます。

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