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ドイツ・ダイムラー社と台湾帝宝工業(株)との意匠権侵害訴訟に起因する「メンテナンス免責条項」を、台湾の国会議員が提案

顧家盛

台湾の自動車補修部品産業(AM産業)に甚大な影響を与える、ドイツ・ダイムラー社(原告)と台湾帝宝工業(株)(被告)との意匠権侵害訴訟について、2019年8月16日に台湾知的財産裁判所により一審で帝宝工業(株)の敗訴の判決が下された後、それに関連する数多くの研究と議論がなされた。当該訴訟が、2020年8月に控訴審の審理に入ってから、再び、産業界とIP業界の注目を集めている。この訴訟に対する裁判所の判決及び立法機関の立法動向により、外国自動車メーカーが台湾で意匠出願を行う意欲が損なわれ、国内自動車部品メーカーが意匠権を回避するための設計能力が向上することなどが考えられる。

当該訴訟の一審判決の内容は、主に以下である。

(1) 被告の製品は確かに、原告の意匠権を侵害した。
(2) 原告の意匠権を、取り消す事由はない。
(3) 原告の権利の行使は公正取引法に違反していない。
(4) 原告は、権利の濫用もしていないし、信義則の違反もしていない。
(5) 原告への補償額は、3000万台湾ドルとする。
(6) 原告の損害賠償請求権は時効を過ぎていない。

その内、極めて重要な争点は、上述の(3)である。裁判官は、「たとえ消費者の選択が後市場(補修部品市場)でロックインされて代替品のオプションがなくても、主市場(新車市場)が十分に競争がある状態では、後市場のロックイン効果(locked-in effect)は競争上、実質的な意義がなく、その場合、主市場と後市場を同一の関連市場とみなすことができる」、「原告の、新車市場におけるシェアが6~8%に過ぎないことから、新車市場は競争が激しく、主市場(新車市場)における制約が後市場に十分に転移できるので、主市場と後市場との連動現象を生じさせる。従って、主市場と後市場との市場連動理論を採用する場合には、新車の販売とその後のランプのメンテナンス市場を、同一の関連市場であると認めるべき、原告は補修部品市場で独占的な地位を有しない」と認定した。

上述の(4)について、裁判官は、「権利の侵害を構成したメンテナンス用ランプに対して原告が権利を主張することを排除できる、意匠権の制限に係る法的理由は存在しないので、侵害を排除するために原告が意匠権を行使することは、権利の濫用に当たると認めるべきではない」と述べた。

以上のことにより、現在、台湾には「メンテナンス免責」(修理条項)に関する法律がないため、国内の自動車補修部品産業の発展に影響することに鑑みて、立法院の複数の立法委員(日本の国会議員に相当)は2020年4月22日に、専利法第136条に第3項、即ち、「意匠権の効力は、自動車又は原動機で走行するその他の車両を、元の外観に回復するための補修部品に及ばない」との追加規定を提案した。

該草案に関する立法は、次の理由に基づくものとのことである。

1. 国内産業の振興を促す必要性

台湾政府は、過去35年間に資源を投入して自動車部品産業を支え、産業界との連携により活況を呈し、輸出額はどんどん上昇している。外観部品の輸出額は、自動車部品産業全体の約68%を占め、2018年には1,500億台湾ドルを突破した。ところが、近年、外国自動車メーカーは、台湾の業者の部品製造と輸出を制限するために意匠出願を行い、さらに、台湾の業者は台湾での意匠訴訟に敗れたため、台湾の自動車部品産業チェーン及び消費者に危機を引き起こした。

2.国際動向に合致する必然性

現在、英国、イタリア、スペイン、オランダ、アイルランド、オーストラリア、ポーランド、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、ラトビア、ハンガリー、シンガポール、その他の旧英国植民地など、14カ国以上が「メンテナンス権益の法規」を制定した。2017年以来、ドイツ、フランス及び米国を始めとする3つの自動車産業の大国も、法改正を積極的に推進している。

3.2018年8月の《消費者報道》第448号では、「メンテナンス権益」の立法の重要性を大幅に提唱した。また、国内の各ブランドの自動車部品の価格を調査した結果、部品の価格差が2~19倍に達していることが分かった。また、ドイツ自動車部品貿易協会(GVA)の2017年の調査データによると、ドイツの自動車の外観部品の価格差は、近隣諸国の「メンテナンス権益」に係る法規を持つ国よりも55%高い。

このように、自動車補修部品市場は、長期的に部品の意匠権者である自動車メーカーにより独占され、部品市場を支配し、部品価格を制御するだけでなく、緻密なパテント・ポートフォリオと意匠訴訟により、独立した部品メーカーの運営と生存を圧迫、妨害し、不公平な競争となり、その結果、消費者が代替部品を選択し、合理的な価格を享受する権利を失い、消費者のメンテナンス権益に深刻な影響を与えていた。

また、上記の意匠権行使の過当による問題を解決するために、ほとんどの国際立法例は、いわゆる「メンテナンス免責条項」を国内専利法に盛り込み、自動車の元の外観を回復するための修復目的で製造、販売、販売の申し出、輸入、使用をする部品について、意匠権の侵害責任を免除し、自動車補修部品産業の競争を開放することにより、国内消費者の権利保護の効果を達成している。故に、英国、スペイン、イタリア、オランダ、ポーランド、アイルランド、ルクセンブルグ、ハンガリー、ラトビア、オーストラリアなどの国の規定を引用するとともに、自動車が耐久財である特殊性を考慮した上で、この規定を作成した。

この「メンテナンス免責条項」は、自動車メーカー業界と自動車補修部品業界との引き合い、IP業界の声、さらには政府の態度などにより、国会で可決されるか否かは分からないが、いずれにしてもその結果は、今後、大きな波紋を起こすのに間違いない。

  

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